歩いているうちにメロスは町の様子を怪しく思った
ひっそりしている
もうすでに日も落ちて町の暗いのは当たり前だが
けれどもなんだか夜のせいばかりではなく
町全体がやけに寂しい
のんきなメロスもだんだん不安になってきた
道で会った若い種をつかまえて
何かあったのか
二年前にこの町に来たときは
夜でもみなが歌を歌って町はにぎやかであったはずだが
と質問した
若い種は首を振って答えなかった
しばらく歩いて牢屋に会い
今度はもっとごせいを強くして
質問した
牢屋は答えなかった
メロスは両手で牢屋の体をゆすぶって質問を重ねた
牢屋は
あたりをはばかる小声でわずか答えた
王様は
人を殺します
なぜ殺すのだ?
なぜ殺すのだ?
悪心を抱いているというのですが
誰もそんな悪心を持ってはおりませぬ
たくさんの人を殺したのか
はい
はじめは王様の妹婿様を
それからご自身のおよつぎを
それから妹様を
それから妹様のお子様を
それから皇后様を
それから献身の荒れ騎士様を
驚いた
国王は乱心か?
いいえ乱心ではございませぬ
人を信ずることができぬ
というのです
この頃は
臣下の心をもお疑いになり
少しく派手な暮らしをしている者には
人質一人ずつ差し出すことを命じております
ご命令を拒めば十字架にかけられて
殺されます
今日は六人殺されました
聞いてメロスは激怒した
呆れた王だ
生かしておけぬ