目が覚めたのはあくる日の白明の頃である
メロスは羽起きナムさん寝過ごしたか
いやまだまだ大丈夫
これからすぐに出発すれば約束の刻限までには十分間に合う
今日はぜひともあの王に人の真実の損するところを見せてやろう
そうして笑って張り付けの台に登ってやる
メロスはゆうゆうと身自宅を始めた
雨も幾分小ぶりになっている様子である
身自宅はできた
さてメロスはブルンと両腕を大きく振って
宇宙矢のごとく走り出た
私は今宵殺される
殺されるために走るのだ
身代わりの友を救うために走るのだ
王の寒寝邪痴を打ち破るために走るのだ
走らなければならぬ
そうして私を
私は殺される
若い時から名誉を守れ
さらば故郷
若いメロスはつらかった
幾度か立ち止まりそうになった
えいっ
えいっ
と大声あげて自身を叱りながら走った
村を出て
野を横切り
森をくぐり抜け
隣村に着いた頃には
雨も止み
日は高く昇って
そろそろ暑くなってきた
メロスは額の汗を拳で払い
ここまで来れば大丈夫
もはや故郷への未練はない
妹たちはきっと良い夫婦になるだろう
私には今何の気がかりもないはずがないから
まっすぐに王城に行きつけば
それでよいのだ
そんなに急ぐ必要もない
ゆっくり歩こう
と持ち前の呑気さを取り返し
好きな小歌をいい声で歌いだした