靴を出て行くというのに こんなに心が重いとは思わなかった
きっとそれは
雑響病棟の ベージュの壁の隅にいた
あのおばあさんが気がかりなせい
相間飲んだ薬の数さえ すぐに忘れてしまう彼女は
しかし
夜中に僕の毛布を直すことだけは
必ず忘れないでくれた
歳とともに誰もが子供に変えていくと 人は言うけれどそれは多分嘘だ
思い通りに飛べない
心と動かぬ手足
抱きしめて燃え残る夢たち
様々な人生を
抱いた
サナトリウムは
柔らかな陽だまりと
話し静けさの中
病室での話題といえば 自分の病気の重さと人生の重さ
それから
夜に至らない
噂話をあの人はいつも黙って 笑顔で聞くばかり
二月もの長い間に彼女を訪れる人が誰もなかった
それは事実
けれど人を哀れみや道場で語ればそれは嘘になる
紛れもなく人生そのものが病室で 僕より先にきっと彼女は出ていく
幸せ不幸せそれは別にしても 真実は冷ややかに過ぎていく
様々な人生を抱いたサナトリウムは
柔らかな陽だまりと話し静けさの中
たった一つ僕にもできる ほんのささやかな真実がある
それは
わずか一人だが
彼女への未満客に
来週からやれること